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高松高等裁判所 昭和44年(く)10号 決定 1969年8月12日

本人 G・T(昭二五・一・一〇生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、記録に編綴してある申立人ら共同作成名義の抗告申立書に記載されたとおりであるから、ここにこれを引用するが、その趣旨は要するに、原決定が少年を中等少年院(交通短期少年院)に送致したのは、少年の資質性格や、保護者(申立人)らの補導能力等に対する評価判断を誤つたことに起因するものであつて、著しく不当である。少年は現在深く前非を反省しており、申立人らにおいても今後は少年の補導監督に尽力する所存であるから、原決定を取消して在宅保護の機会を与えて貰いたいというに帰するものである。

よつて所論に鑑み、記録並びに当審における事実取調の結果を総合して按ずるに、少年は、自動二輪車の運転資格を有し、かねてからこの種車両の運転に従事していたものであるが、昭和四一年頃業務上過失傷害(交通事故)の罪を犯して松山家庭裁判所の保護的措置を受けたことがあり、その後も数回に互り速度違反の交通違反を犯して二回も刑事処分(罰金刑)に附せられている。そしてその後重ねて本件の無免許運転(普通自動車)を敢行しているのであつて、少年には交通法規を遵守し、交通の安全を果たそうという心構えが著しく欠けていると認めざるを得ない。少年は、普通刑法事犯の非行前歴こそ有しないけれども、その性格には多分に気まぐれ的で慎重さを欠く面があり、その生活態度にも問題視すべき点がなかつた訳ではないことが記録上窺われるのであつて、これらの負因が少年のたび重なる交通非行の要因をなしていることを否定することはできない。

最近わが国においては、自動車の激増に伴い各地に悲惨な交通事故が頻発して恰も交通地獄の観を呈しており、歩行者と車両の交通安全は今や切実な社会的悲願となつている。この悲願を達成するためには、国家や地方公共団体をはじめとする国民各層の幅広い交通対策が必要であることはいうまでもないところであるけれども、わけても車両の運転に従事する者において交通法規を厳守し、安全交通に徹する心構えを堅持することが必須であつて、交通違反を単なる取締法規違反として軽視することは許されない。交通法規違反は最早や単なる行政法規違反たるに止まらず、進んで自然犯的性格を具有しつつあるのであつて、この種事犯の累犯少年に対しても実効ある矯正措置が切に望まれるのである。

ところで法務矯正当局は、激増する交通違反少年の矯正対策として、普通少年院である松山少年院内に交通専門の矯正施設を設置することを決定し、昭和四四年一月いわゆる短期交通少年院なるものを発足せしめている。その処遇方針は、道路交通法違反(業務上過失致死傷罪を含む)で少年院送致となつた男子少年のうち、過去に少年院収容歴のないもの、組織暴力に関係のないもの、心身に著しい障害のないもの、処遇上著しい支障のおそれがないもの、保護関係の良好なものを対象(なお家庭裁判所が少年審判規則三八条により特別の短期交通教育をなすべき旨を勧告して送致した少年を含む)とし、これを一般保護少年から隔離収容して厚遇する傍ら、厳格かつ規律ある生活訓練を体得させると共に、交通関係の技術知識の向上と遵法精神のかん養につとめ、収容期間も原則として三ヶ月の短期間に限定して施設馴れ等の弊害を防止し、もつて所期の矯正効果を全うしようというものであつて、従来ともすれば等閑視され勝ちであつた交通累犯少年に対して実効ある矯正処遇を与え得ることが期待されるのであり、現に同院においては昭和四四年一月の発足以来至極順調な矯正実績を収めていることが認められるのである。

少年は、将来自動車関係の会社に就職し、普通自動車の運転免許を取つてこの種車両の運転にも従事したい意向を表明しており、保護者である申立人らにおいてもこの点につき格別の異論はない模様であつて、今後少年が引続き車両運転に従事する可能性は極めて高いものと予想される。従つて少年の将来のためにも、この際少年に徹底した交通教育を施すことが有用であつて、その方策として少年を前記のような趣旨目的を有するいわゆる短期交通少年院に収容することも強ち失当な措置とは認められない。

少年を手許に引取つて十分に監督補導したいという申立人らの心情も理解し得ない訳ではないけれども、少年のたび重なる交通違反歴やこれまでの生活態度に徴すると、申立人らの保護監督能力にも疑問の余地があり、他に見るべき保護資源も俄かに肯認し難いところであつて、少年を今直ちに在宅保護に委ねる実効性については些か疑念を抱かざるを得ない。原決定も以上の同趣旨の見地に立つて本件の措置に及んだものと窺われるのであつて、一概にこれを不当視することはできない。論旨は即ち理由がない。

よつて少年法三三条一項により本件抗告を棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小川豪 裁判官 越智伝 裁判官 小林宣雄)

参考 原審決定(松山家裁 昭四四(少)六一一九号 昭四四・六・二六決定)

主文

少年を中等少年院(交通短期少年院)に送致する。

理由

(非行事実)

少年は公安委員会の運転免許を受けないで昭和四四年三月○○日午前二時四六分ごろ、愛媛県伊予郡○○町○生、○部○油付近道路において普通乗用自動車を運転したものである。

(前歴)

少年は、昭和四二年一一月二七日当庁において業務上過失傷害(昭和四一年少第一一八五号)および速度超過による道路交通法違反(昭和四二年少第八七四八号)各保護事件により、保護的措置を受けて審判不開始となり、同月二八日には速度超過による道路交通法違反保護事件など、(昭和四二年少第一一一〇五号および第一一五〇八号)により刑事処分相当として、検察官送致決定を受け、更に昭和四三年三月四日にも、踏切不停止の道路交通法違反保護事件により、前同様、検察官送致決定を受けているものである。

(適条等)

少年の本件非行は道路交通法第六四条、第一一八条第一項第一号に該当するものであるところ、本件非行は、いわゆる交通三悪の一角を形成するものであつて、少年自身および一般社会に対して、極めて危険性の高い非行である。のみならず少年は、かつて当庁において保護的措置を受け交通非行に対する重大性を十分に認識しているべきものであり、また二回に互る刑事処分によつても、反省の機会は与えられ、少年自身の自覚があるべきことが期待されているにもかかわらず少年は、本件の如き非行を反覆している。

以上のことからみると、少年は、在宅による保護的措置による成果は、ほとんど認められず、また、刑事処分をもつてする矯正的成果も、ほとんど認められない。

当裁判所の調査ならびに審判および松山少年鑑別所による鑑別結果に照らせば、在宅保護による処遇をもつてしては、少年の矯正は著しく困難であると認められる。

なお、少年は昭和四四年六月一六日当裁判所において、少年法第一七条第一項第二号の措置決定を受けたものであるが、同月二三日運転免許試験を受けるため同条項第一号の措置に変更決定を受け運転免許試験を受験したが、不合格となつていることが明らかである。このことは少年について現時点においては運転の適格を有しないことを如実に示すものである。

少年は現在の住居としては審判の際には本籍地と同じであり、父親と同居していることになつているけれども、広島県竹原市方面でバーテンをしていたことが明らかであり保護環境ならびに保護者の保護能力の点にも問題がある。

以上の事情を総合的に考慮して、少年を少年院(交通短期)に収容してその性格を矯正し、少年の健全な育成を期し、併せていわゆる交通戦争による社会不安を除去する必要があるものと認め、少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項により主文のとおり決定する。

(裁判官 田村秀作)

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